コレクション日本歌人選の一冊。
副題は「生涯歌い続けた長崎原爆への怒り」。
長崎県生まれの著者が「短歌を愛する国文学者として、竹山広を日本文学史に正当に位置づけたい」という意図をもって、竹山の短歌50首を鑑賞・解説している。
身を薙ぎて一瞬過ぎし光あり叫ばむとしてうち倒れゐき
水のへに到り得し手をうち重ねいづれが先に死にし母と子
夜に思ふこと愚かにて絶命ののちいつまでも垂りし鶏の血
おそろしきことぞ思ほゆ原爆ののちなほわれに戦意ありにき
医者にかかりし覚えがなしといふ人の後ろにも死は近づきをらむ
「記憶のリアリティ」を目指す竹山短歌は、「アララギ」の写実とも反写実の前衛短歌とも違う第三の道である、というのが本書の骨子である。
古典や啄木、佐太郎との関わりなど、著者の豊富な知識と調査が生かされた一冊であるが、やや情熱が空回りしている部分も散見される。
2018年11月9日、笠間書院、1300円。