浅草の凌雲閣(りょううんかく)のいただきに
腕組みし日の
長き日記(にき)かな
石川啄木『一握の砂』
凌雲閣は1890年に竣工した12階建ての展望塔で、高さは52メートル。当時、日本一の高さを誇る建物であった。別名「十二階」と呼ばれることもある。
観光名所として人気を集めた建物であったが、1923年の関東大震災で上部が崩落し、その後、解体された。
『一握の砂』の序文を書いた渋川玄耳の『藪野椋十日本見物』(1910年)という旅行案内を読んでいたら、この凌雲閣の話が出てきた。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/762983
凌雲閣!なる程丁度十二階ある。一体何の為に建てたものぢやらうか、滅法に高いものぢや。少し歪んで居る様ぢや。筋金が打つてある。是は険呑ぢや。彼(あ)れが崩れたら其麼(どんな)ぢやらう、考へて見てもゾツとする。流石に東京者は胆が据つて居る哩(わい)、彼(あ)の危険物を取払はせずに、平気で其近所に住んで居るのは。尤も博覧会は東京に雨が降らぬものとして建てた相ぢやから、此十二階も地震の無い国の積ぢやったらう。
最後の「此十二階も地震の無い国の積ぢやつたらう」は、13年後の地震による崩壊を予言したかのような一文ではないか。
渋川玄耳、すごい!
その古書のまちから目と鼻の先に、かつて浅草と同じ名前の「凌雲閣」という展望塔があったことを思い出し、その足で跡地に建てられた石碑を見てきました。こちらは木造でキタの九階と呼ばれていたようですね。失われた風景はいとおしいです。