コレクション日本歌人選71。
佐藤佐太郎の全13歌集から50首を選び、鑑賞・解説を記した本。見開き2ページで一首の歌を取り上げるという読みやすい形になっている。
鑑賞は単なる一首評とは違ってしばしば佐太郎短歌の本質に迫る記述を含んでおり、全体として佐藤佐太郎論になっていると言っていい。
この浮遊する「は」は佐太郎の歌に多く現れてくる。(・・・)言わば佐太郎生来のあてどない心の動性に深く関わる「は」なのである。
佐太郎は抽象的な名詞に動詞「す」を接続して動詞化することが多い。この「影す」のほかにも「音す」といった動詞は佐太郎の愛用する動詞である。
あえて文脈上の「捻じれ」を用いる。それによってあてどない主体の心の動きを描写する。そこに技巧がある。
文中には繰り返し「茫漠とした意識」「あてどない感覚」「空漠とした作者の心情」といった言葉が登場する。そうした意識の空白や、意識と無意識のあわいを詠むところに佐太郎の真髄があるのだろう。
佐太郎短歌の入門書として、また短歌の本質や技法を考える手掛かりとして、中身の濃い一冊である。
2018年12月10日、笠間書院、1300円。