2019年01月08日

嵯峨直樹歌集 『みずからの火』


一頁一首組で163首を収めた第3歌集。

不安定な温(ぬく)い血のなかちょこれいと暗くつやめく小雨の夜に
枝ふとく春夜をはしる絶叫をあやうく封じ込めて静寂
池に降る三月の雨、穏やかな水紋としてかつていた人
暗闇の結び目として球体の林檎数個がほどけずにある
夕ぐれの緋(あか)い粒子に浸されたバスの車内の影は盛りたつ
五指の間に五指をうずめる 薄らかな光ちらばる夜の市街地
うす紅の空の底部を擦りつつ車のひかり街をつらぬく

1首目、「ちょこれいと」のひらがな表記が印象的。
3首目、池の面の水紋を見て去った人を思い出している。
5首目、夕焼けの赤さと陰影だけになった車内の光景。
7首目、垂れ込める空へとのびる車のヘッドライトか。

2018年5月25日、角川書店、2600円。


posted by 松村正直 at 07:09| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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