2018年12月28日

「塔」2018年12月号(その3)

 人はみな腹に穴あるものと知りわが臍を子がしきりと探る
                          益田克行

「腹に穴がある」がいい。大人が当り前に思ってしまうことに対しても、幼い子は強い関心を示す。父親の臍を見つめては何度も触ってくるのだろう。

 突然の雨ビニール傘に子を入れて自分も入れてかばんはみ出る
                          春澄ちえ

雨が降り始めたことによって「子」「自分」「かばん」という優先順位が図らずも露わになったのだ。鞄が濡れてしまうのは仕方がないという思いである。

 ひいやりと銅山坑道そこここに今は人形たちが働く
                          古栗絹江

観光用に公開されている坑道。昔の作業の様子がわかるように人形が置かれている。結句「働く」と擬人化したことで奇妙な味わいが生まれた。

 吾の名を決めてくれしとふ上の姉四十歳(しじふ)で逝きて写真に
 笑まふ                    竹尾由美子

だいぶ年齢の離れた姉だったのだ。自分が子どもの頃には既に大人だった感じである。そんな姉が今では自分より若い姿で写真に微笑んでいる。

 泥酔しひらく真昼の冷蔵庫なにかをつかめば卵であった
                          田獄舎

夜遅くまで飲んでいたのだろう。目を覚まして喉が渇いたか空腹を覚えたか、朦朧とした意識のままに冷蔵庫を開ける。卵は割れてしまったかも。

 ペン立てにペンを立てればペン立ては満足そうにペンを立たせる
                          真栄城玄太

言葉遊びのような楽しい歌。ペン立てはペンが入っていないとただの容器だが、ペンが入っていると「ペンを立てる」という機能を果たせるのである。

posted by 松村正直 at 09:19| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。