2018年12月27日

「塔」2018年12月号(その2)

 順ぐりに高足蟹は足あげて踏みはづし行けり底のひらめを
                          篠野 京

タカアシガニの折り畳まれた脚の長さやゆっくりした動きが見えてくる歌。一歩一歩、足元にいるヒラメを踏まないように歩くなど、意外に繊細なのだ。

 思い出しながら頭の中に書く崖という字が景色に変わる
                          高松紗都子

下句の表現がいい。「ガケってどう書くんだったかな?」と思いながら一画一画書いていき、「崖」という字になった瞬間、崖の景色が思い浮かぶ。

 声かけつつ互みに照らし合ふみちに安堵を分かつ知らぬ顔とも
                          栗山洋子

作者は北海道の方。9月の北海道地震は夜中3時過ぎに起きた。「互みに照らし合ふ」がいい。懐中電灯を持って外に出て互いの生存を確かめ合う。

 揉上げは普通でよいかと聞かれたりまこと普通は便利なことば
                          宗形 光

理髪店でもみあげについて尋ねられる場面。長さや切り方など実際には多くのパターンがあるのだろう。でも、大体は「はい」と答えてお任せになる。

 このお花おいしさうねと母が言ふ食べることはや絶えてしまひしに
                          祐徳美惠子

もう食欲もないほどに衰えた母が、飾られた花を見て「おいしさうね」と呟く。その言葉に軽い驚きを覚えつつも、命の不思議な息づきを感じたのだろう。

 夏が夏に疲れるような夏だった橋の向こうに日没を見る
                          魚谷真梨子

猛暑続きだった夏がようやく終わろうとするところ。橋の向こうに沈む夕日が季節の終わりを告げるとともに、虚脱感のような身体感覚を伝えている。


posted by 松村正直 at 08:16| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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