2018年12月26日

「塔」2018年12月号(その1)

 土石流に流されし木のずるむけの赤きしめりに夏の日射せり
                          上條節子

作者は広島の方。豪雨の被害に遭った場所に、表皮の剝がれた木が横たわって残っているのだろう。「ずるむけ」という言葉が何とも生々しい。

 パソコンのハードディスクに積ん読の電子書籍がたまりてゆけり
                          岡本幸緒

「積ん読」は読んでいない本が積まれている状態のこと。電子書籍はデータなので積まれることはないのだが、それを「積ん読」と言ったのが面白い。

 ちひろの切手にハガキ届きぬをみなごの顔に二本の風あと付けて
                          伊東 文

「二本の風あと」は消印の波線のことだろう。まるで風に吹かれているかのような表現が巧みだ。いわさきちひろの絵の少女が生き生きと見えてくる。

 旅の話をするのは一度っきりでいい 寧ろ、旅とはあなたのことだ
                          白水ま衣

一緒に行ったのではない旅の話を相手がするのだろう。三句で切って「寧ろ、」でつないだ文体が特徴的。あなた自身の話を聴きたいという思いか。

 自転車に登り来て青年自販機の飲料を買う「峠茶屋」の跡
                          小島美智子

かつて茶屋があった所に今は自動販売機が立っている。時代は変っても地形は昔のままだから、自転車や徒歩の人はそのあたりで喉が渇くのだ。

 薬局の壁紙しろく避妊具のとなりに売られている離乳食
                          吉田 典

「避妊具」と「離乳食」の取り合わせが印象的。子ども産まないためのものと生まれた子どものためのもの。正反対と言ってもいいものが隣り合う。


posted by 松村正直 at 11:04| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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