2018年12月12日

野村進著 『千年、働いてきました』


副題は「老舗企業大国ニッポン」。
2006年に角川oneテーマ21新書で刊行された本の文庫化。

創業100年以上の19社を取り上げて、老舗企業が現代まで続く理由に迫ったノンフィクション。著者が見つけた老舗の共通項は「適応力」「許容力」「本業力」の3つである。

老舗のモノづくりの技術が最新の携帯電話にも数多く使われている事実など、知らない話がたくさん出てきて面白い。諸外国との比較の話になるとやや日本万歳という調子になるのが気になるのだけれど。

ケータイの“ゴミの山”一トンあたりには、およそ二百八十グラムの金が含まれている。日本で採掘される最も品質の高い金鉱でも、一トンから六十グラム程度の金しかとれないのだから、ケータイの方が四、五倍も金を含有していることになる。
農林業関係者に蛇蝎のごとく嫌われている「カイガラムシ」という虫がいる。たしかに質(たち)の悪い害虫ではあるのだが、中国では古くから漢方薬に用いられてきた。おまけに、この虫が分泌するロウは、まっ白な色から「雪ロウ」と呼ばれ、光沢があり、科学的にもきわめて安定している。
日本の老舗にはたしかに一族経営が多いのだが、細かく見てゆくと、長男がいるにもかかわらず、養子に迎えた娘婿のほうが経営者として優秀なら、そちらを後継に選んだりしている例が珍しくない。

2006年に刊行された本なので、その後に状況が変ってしまった老舗企業もある。1883年創業で岡山市に本社があるバイオメーカーの「林原」は、本書で「同族経営・非上場の強み」の例として紹介されているのだが、2011年に会社更生法適用を申請して倒産した。

その経緯については「文庫版あとがき」にも記されているのだが、粉飾決算や同族経営の歪みが倒産の原因と言われており、何ごとにも表と裏があることを図らずも示す結果となっている。

2018年8月1日、新潮文庫、520円。

posted by 松村正直 at 08:26| Comment(2) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いつもブログを拝読いたしております。
いろいろ教えていただき、ありがとうございます。また、昨日は『塔』の会員ではないのに、厚かましくもたくさん歌集などを分けていただき、ありがとうございました。早速読ませていただいております。
勤務先がとても近いので、いつも気になっておりました。塔短歌会の事務所にお邪魔できたことが、すごく嬉しいです。皆様にも親切にしていただき、重ねて御礼申し上げます。
ありがとうございましたm(__)m
Posted by RM at 2018年12月13日 15:13
RM様
ブログをお読みくださり、ありがとうございます。
今後も「塔」会員以外の方が参加できる企画を
事務所であれこれやっていきたいと思います。
Posted by 松村正直 at 2018年12月13日 22:01
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