副題は「「たねや」に学ぶ商いの基本」。著者は和菓子製造販売の「たねや」や洋菓子製造販売の「クラブハリエ」を展開する「たねやグループ」のCEO。
以前、私の好きな建築家・建築史家の藤森照信が設計した「ラ コリーナ近江八幡」に行ったことがある。とても素敵な店であり空間なのだが、ここが「たねやグループ」の中心地で、今では年間300万人近くを集める場所となっている。
本書は創業家の十代目として生まれ、2011年に「たねや」を継承した著者が、自らの理念や商売の方法を記したもの。
世の中には「手作り信仰」というか、手作業のほうがおいしいという思い込みがある気がします。とんでもない。実は、和菓子は人間の手が加われば加わるほどダメになっていきます。
菓子屋は「主人の舌」がすべてです。主人がOKを出したものしか店頭に並ばない。
無菌状態で作る水羊羹に「本生水羊羹」とネーミングしたのは、紫色のあんここそ本物なのだ、という思いがあるからです。世の中の人は黒っぽい茶色があんこの色だと思い込んでいますが、それは本物じゃない、と訴えたかった。
自分たちで作ったものを、最後まで自分たちで商う。これが、たねやの哲学です。誰かに頼んで売ってもらうと、お客様との関係が切れてしまう。
伝統を守るとは、変えることなのです。ただし、変えたことがお客様にわかるようでは、話になりません。大きく変えているのに「昔から変わらん味やなあ」と言っていただいてはじめてプロなのです。
現在の「たねや」の成功の舞台裏がわかるとともに、自然との共生や地域への貢献など、これからの社会のあり方を考える上でも役立ちそうな一冊である。
2018年8月20日、講談社現代新書、860円。