北海道で獣医師として働きながらキタキツネの生態調査やナショナルトラスト運動などに尽力した著者。1991年に退職してからは執筆家・写真家として活躍している。
表紙の写真が何とも素敵だ。「治療中に脱走したユキウサギを追う看護婦長・・・カミサンを撮ったもの」と説明がある。
以前、函館に住んでいた時に北海道関連の本をいくつも読んだのだが、その中にこの著者の『北海道動物記』『北海道野鳥記』(平凡社ライブラリー)があった。2冊とも非常に印象的でいっぺんに好きになった。
本書は主に1970年代の出来事や様々な人々との交流の思い出を記した18篇を収めている。「青春と読書」2016年10月号〜2018年5月号に連載した文章をまとめたものだ。
北海道と樺太の深いつながりを示す一篇もある。
Sさんは近くの養狐場に勤めていた。(・・・)日魯漁業(現・マルハニチロ)のもつ日魯毛皮(現・ニチロ毛皮)の網走飼育場の飼育員である。歴史は長い。終戦時は樺太、現サハリンにいた。その時も毛皮場の飼育員でそのままシベリアへ抑留され、そこでも同じことをやっていた。
樺太から引き揚げてきた人が北海道には多く住んでいる事実を、あらためて教えられる記述であった。
2018年11月25日、集英社文庫、740円。