2018年11月27日

「塔」2018年11月号(その2)

 水平に、また垂直に伸びていく都市だ 五階の窓をひらけば
                        紫野 春

高い建物の窓から眺めると、街が平面的に広がるだけでなく、立体的に伸びていることに気が付く。「水平に、また垂直に」という始まり方がいい。

 年寄りはみな赤ん坊に触れたがり雨の街ゆくバス華やげり
                        王生令子

赤ちゃんが一人いることで、周りが賑やかになる感じがよく伝わってくる。赤ちゃんに触れると、何かエネルギーをもらって若返ったような気分になる。

 常夜灯ついてるほうがなんとなく心細くて暗闇にする
                        小松 岬

蛍光灯のナツメ球のこと。一般的には真っ暗だと不安なので常夜灯を点けておく。でも、言われてみれば確かに、ほのかな光なのでかえって心細い。

 二刀流宮本武蔵はすぐ倒(こ)ける父が作りし小っちゃい人形
                        松下英秋

情景がありありと目に浮かぶ歌。刀を二本持っているのでバランスが悪く、すぐに前に倒れてしまうのだ。何とも弱そうな宮本武蔵なのがおかしい。

 機械油に汚れし階段のぼりゆく産前休業まであと七週
                        吉田 典

工場などの職場で働いている作者。妊娠中なので階段をのぼるのも大変である。「あと七週」と自身に言い聞かせながら一日一日働いているのだ。

 浄水場のみづは水路を走りをりしんそこほそいクロイトトンボ
                        松原あけみ

水路の上をクロイトトンボが飛んでいるところ。「しんそこほそい」のひらがな表記が効果的。トンボの身体の細さだけでなく水の流れもイメージされる。

 落石に押し潰された看板の「落石注意」はだいぶ正しい
                        平出 奔

交通標識の破損をユーモアを交えて詠んでいる。まさに注意喚起していた通りに落石があったわけだから、標識としてはある意味本望かもしれない。


posted by 松村正直 at 15:52| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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