2018年11月26日

「塔」2018年11月号(その1)

 たまたまに外出どきの蚊のひとつ肩にとまりてわが家にはひる
                        大橋智恵子

蚊のことが別に嫌いなわけではないようで、冷静に観察している。洋服の肩に止まったまま家に入って来てしまった蚊を心配しているようでもある。

 巡回の鳩のうしろをしずしずと立ちゆく朝のちいさき草は
                        なみの亜子

鳩が踏みつけた後で草がまた起き上がる様子。「巡回」とあるので、鳩はそのあたりを何度もぐるぐる歩いているのだ。鳩と草と作者の朝のひととき。

 子供らがよくしてくれてと人に言ひ母は私をつなぎとめたい
                        久岡貴子

上句だけ読むとほのぼのした家族の話かと思うのだが、下句でドキッとさせられる。母と娘の間の心理的な駆け引きが一首に深い陰翳を与えている。

 へろへろと去年の糸瓜が芽を出すから男なんてと思つてしまふ
                        大島りえ子

前年に育てた糸瓜のこぼれ種が芽を出したのか。糸瓜の芽から下句の「男なんて」に飛躍したところが面白い。何か不満に思うことがあったのだろう。

 三人産むはずだったのと今日も言う母の穴すべて今塞ぎたし
                        朝井さとる

実際は一人か二人しか産まなかった母。娘である作者にしてみれば、「私では不満なの」と言いたくなる。下句は介護の場面か。何とも強烈な表現。

 捻子一つ夫の手にありパソコンの椅子の組み立て終わりしあとを
                        数又みはる

ユーモアのある歌。どこかの捻子を一つ付け忘れたのだ。でも組み立てには順序があるから、もう一度バラバラにしない限り締めることができない。

 ふた回り小さきバスが巡行す若きみどりのペイント塗られ
                        岡山あずみ

近年あちこちでよく見かけるコミュニティバスだろう。通常の路線バスより小さな車体のものが多い。そして、過剰なまでの明るさが演出されている。


posted by 松村正直 at 20:46| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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