2018年11月10日

米川千嘉子歌集 『牡丹の伯母』

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2015年から2018年までの作品440首を収めた第9歌集。
タイトルの読みは「ぼうたんのをば」。

岡本かの子の恋人の墓訪ひゆけば守りびと老いて墓移りぬと
つやつやの茄子の深色(ふかいろ)いただきぬ人間(ひと)ならどんな感情ならむ
ひとは誰かに出会はぬままに生きてゐる誰かに出会つたよりあかあかと
中古品となりし歌集を買ひもどす互ひにすこし年をとりたり
吉永小百合のほほゑみコンコースにつづき何かの罪のごとく老いざる
首すぢから腰から濡れて螺旋描(か)くやうに濃くなる菖蒲を見たり
転勤をかさねるうちにわが息子段ボール箱の一つにならむ
蠟梅のうすく磨いた花びらにそよと巻きつくひよどりの舌
リハビリ棟の窓に映れる二重奏若き腕(かひな)と老いたる腕(うで)と
最後の晩餐おもへば夫も子もをらずただしんしんと粥食べるわれ

1首目、かの子の恋人はたくさんいるが、これは早稲田の学生だった堀切茂雄のこと。若くして結核で亡くなった。
4首目、自分も歌集も同じだけの歳月を経て再会したのだ。
5首目、コンコースの柱などにポスターや映像があるのだろう。「何かの罪のごとく」が印象的。
8首目、「うすく磨いた」に蠟梅の花の質感がうまく出ていて、ほのかなエロスも感じる。
9首目、リハビリする人と介助する人。「腕」だけで表現しているのがいい。

2018年9月8日、砂子屋書房、3000円。


posted by 松村正直 at 08:39| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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