
2010年から2017年の作品328首を収めた第1歌集。
「未来」所属。2016年、第27回「歌壇賞」受賞。
写真いちまい端から燃えてゆくやうに萎れてしまふガーベラの赤
木香薔薇の配線は入り組みながらすべての花を灯してゐたり
覗きこめばあなたは祖母の貌をして水の底よりわたくしを見る
雨音は性欲に似てカーテンをひらく右手を摑む左手
ベッドから遥かに望むつま先はなんと儚い岬だらうか
喫茶店の床にごろりと寝転んだ犬のかたちに呼吸(いき)はふくらむ
雨音ももう届かない川底にいまも開いてゐる傘がある
そこだけが雪原の夢 プロジェクタの前にあかるく埃は舞つて
腕は錨 ベッドのふちに垂らしては眠りの岸をたゆたつてゐる
釣り針を口にふくみてたゆたひぬ基礎体温のうねりの中に
2首目、木の枝を「配線」に喩えたのが鮮やか。木香薔薇ならではの感じ。
3首目、入院している祖母を見舞った歌。「祖母の貌をして」が悲しい。
6首目、犬の身体全体が膨らむ感じ。
7首目、傘が「開いてゐる」ところに哀れを感じる。
10首目、口に咥えた基礎体温計を「釣り針」に喩えているのが印象的。
比喩を使って日常を異化するのが得意な作者だが、歌集の最後の方の妊娠・出産を詠んだ歌については、この手法はあまり効果を上げていないように感じた。
2018年9月9日、本阿弥書店、2200円。