著者は石川啄木の妹。伝道師として布教活動を行ったのち、夫の三浦清一とともに神戸の養護施設「愛隣館」で働いた。
啄木に関する貴重な証言が多く収められているほか、いわゆる「不愉快な事件」や啄木の墓をめぐる問題についても自らの主張を述べている。
兄について書かれたもののなかには、じつに的はずれな批評、考察、曲解などをまことしやかに語り伝えているものもあります。こうしたことに触れるにつけて、私は驚くと同時に、ただ一人の妹として、できるだけ訂正しておきたいものと考え、このたび本書をまとめました。真実の啄木を知っていただきたいと思ったからです。
当時76歳だった著者の思いは、この「あとがき」の文章からもよくわかる。批判の矛先は啄木の妻・節子の実家である堀合家、金田一京助、宮崎郁雨、岩城之徳にも及んでいて、一人の人間の「真実」を捉えることの難しさを思わせられる。
1964年、理論社、420円。