2014年から2016年までの作品465首を収めた第9歌集。
ショーケースに手をさし出(いだ)す観音に届くことなしこの世の落花
風呂敷に包まれている菓子の箱まむすびのうえに春の陽とどく
殺虫剤あびて逃れしすずめ蜂きのうの雨にうたれ死にけん
逆さまにプラスチックの烏二羽ぶら下げられぬ柿の上枝(ほつえ)に
歩きだすまでの同行二人なる杖は電車に置きどころなし
山脈を越えて土佐路となりたれば太平洋のかがよいあふる
倒木を撤去中なるアナウンス停車のむこう白波しぶく
でんぼやは生姜糖売る店なれど市立てる日の今日も閉店
朝一の一番釜のうどんへと並ぶ讃岐の男ら寡黙
古民家の管理のために火を焚くと今日もきたれる翁つつまし
2首目、「まむすび」は風呂敷の結び方。この一語で歌になった。
3首目、すずめ蜂の死に際の姿を想像して、憐れんでいる。
5首目、遍路に欠かせない杖だが、車中では何の役にも立たない。
6首目、四国山脈を越えて太平洋側に出た時の開放感。
9首目、「一番釜」という言葉を初めて知った。うどん好きな人々。
10首目、囲炉裏の火を焚かないと家が傷んでしまうのだ。
2018年9月14日、角川文化振興財団、2600円。