
2015年から2018年までの作品448首を収めた第14歌集。タイトルは「りくりくぎょ」と読み、鯉のこと。
山の青葉むくむくとしてうつしみの扁桃腺は腫れ上がりたり
猫たちに虫をいぢむる恍惚のときありて虹いろの両眼(りやうがん)
二日目のみどりごをガラス越しに見てしばらく立てり白い渚に
見つめ合ふうち入れ替はることあるをふたりのみ知り猫と暮らせる
もの思ふ秋もへちまもありません泣きぢから凄き赤ん坊ゐて
だつこひものママさんたちはぷりぷりの海老のやうなり車中に四人
合唱のひとびとに似てあたらしき墓石群たつ霊園の丘
若き日は見えざりしこの風のいろ身に沁むいろの風の秋なる
来よと言ひ早く帰れと言ふ母よいくたびもわれを鳥影よぎる
思ふたびこちら向きなる鹿のかほ絶対音感の耳立てながら
1首目、自然の移ろいと身体の変化がリンクしているような面白さ。
2首目、「虹いろ」がいい。猫は虫や小動物をいたぶるのが好き。
3首目、新生児室を廊下から見ているところ。産着やベッドの白さ。
4首目、猫にはどことなく人間っぽいところがある。
5首目、「泣きぢから」という言葉がいい。生命力の表れである。
6首目、比喩が印象的な歌。健康的な明るさを感じる。
7首目、真っ直ぐに等間隔に並んで立っている墓石。
8首目、秋風が身に沁みる年齢になったということなのだろう。
9首目、年老いた母の見舞いに行った際の歌。母の寂しさが滲む。
10首目、常に耳を立ててこちらをじっと警戒して見ている鹿の姿。
2018年9月1日、本阿弥書店、2600円。