2018年09月28日

「塔」2018年9月号(その1)

 悪臭と広辞苑に記さるるどくだみがわれは好きなり硝子器に挿す
                       竹田千寿

『広辞苑』を引くと確かに「葉は心臓形で悪臭をもつ」と記載されている。でも、どくだみ茶もあるくらいだから、好きな人もけっこういるように思う。

 カーテンを洗つたことは気づかれずひとり吹かれるすずしき風に
                       干田智子

カーテンを丸洗いするのは大変な作業だけれど、家族は誰も気付いてくれない。でも、きれいなカーテンに吹く風の心地よさに報われた気分になる。

 分かりやすい言葉で書けとわれに言う声は蛍光ペンの明るさ
                       白水ま衣

文章にしろ短歌にしろ、分かりやすさだけを求めると底が浅くなってしまう。蛍光ペンのような翳りのない明るさを求める風潮に対する異議申し立て。

 「着衣のマハ」「裸のマハ」を観てきたる眼は見てをり鮎の火かげん
                       渡辺美穂子

昼間はゴヤの展覧会を見てきて、夕食の支度をしているところ。取り合わせが面白い。鮎を焼く火を見ながら絵のことを思い出しているのだろう。

 こころには琴線という線のあり他者だけがふれくる前触れもなく
                       中田明子

確かに「琴線」は自分で触れることはできない。何かを見たり誰かの話を聴いたりして感じるもの。四句の字余りと「ふれ」「触れ」の重なりが効果的。

 切られし首つながれ苔の生えてをり廃仏毀釈の名残りといひて
                       田口朝子

明治期の廃仏毀釈では多数の寺や仏像が壊されるなどの被害にあった。切られた痕を癒やすかのように苔の生えた石仏に、歴史を感じている。

 なわばりを決めているのか一枚の田に一羽ずつ白鷺が立つ
                       森 祐子

場面がよく見えてくる歌。四角い田の一枚一枚にぽつんぽつんと立っている白鷺。特に縄張りがあるわけではないのだろうが、距離感が面白い。

posted by 松村正直 at 23:16| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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