特集は「穂村弘を読む」。
大辻隆弘の「東京から来た転校生」がおもしろい。傑作。
穂村弘の印象を昭和45年の三重県の小学校に東京からやって来た転校生に喩えて、新歌集『水中翼船炎上中』を論じている。穂村や東京に対する大辻の思いが、驚くほど率直に記されていて胸を打たれる。
これは「レ・パピエ・シアン2」という大辻のホームグラウンドのような同人誌だからこそ書けた文章かもしれない。のびのび書いていて、読み物としても批評としてもすこぶる面白い。
穂村や東京に対する「劣等感」や「コンプレックス」を隠さないのは、反対にそれだけの確かな自信を今の大辻が持っているということでもあるのだろう。
文中に出てくる2000年の熊本のシンポジウムは私も聞きに行った。当時は大分に住んでいて、高速バスで熊本まで往復したのだった。あれから18年も経ったのか。
穂村さんの新歌集『水中翼船炎上中』は、彼がデビュー以来、一貫して否定してきた近代短歌のルールを、部分的に取り入れた歌集である。
こうした大辻の分析に私も共感しつつ、本当にそう言ってしまって良いのかという迷いもある。「未来」9月号の時評で高島裕は、この歌集がこれまでの穂村の歌集とは大きく異なっている点を述べた上で
しかしそこに穂村の「転向」を見ようとするのは早計である。
と書いている。このあたり、まだまだ議論になる部分だろうと思う。