2018年09月05日

生田亜々子歌集『戻れない旅』

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第5回現代短歌社賞を受賞した作者の第1歌集。
2009年から2018年までの作品363首が収められている。

 つなぎたい手とつなぐはずだった手と静かな雨に包まれる夕
 塗り分ける色が多くて少しずつ夏の野原じゃなくなってゆく
 雉鳩と雀の声が交差する連休終わりから二番目の昼
 初蟬が鳴き始めれば流れ出す編年体の夏の記憶よ
 言われるがままに着替えて横たわる検査室から外は見えない
 夕暮れのガラスに映るこんな目をして人混みをやって来たのか
 生きていることを確認するようにボタンを押してコーヒーを買う
 Amazonがわらびを買えと言ってきて寒い 言葉は人を殺せる
 住む場所を何度変えても変わらない地図記号なら果樹園が好き
 ポテト食べているのかケチャップ食べているのかどちらにしても
 満たされぬ夜

4首目、蟬の鳴き声を聞くと、これまでの夏の思い出が甦ってくる。
6首目、ガラス窓にたまたま映った自分の生気のない表情に驚く。
8首目、アマゾンのおすすめに、なぜか表示されている「わらび」。
9首目、唐突な下句がいい。子どもの頃から好きだったのだろう。
10首目、ケチャップをたっぷり付けたフライドポテトを食べる夜。

2018年8月27日、現代短歌社、2500円。


posted by 松村正直 at 08:50| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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