
第5回現代短歌社賞を受賞した作者の第1歌集。
2009年から2018年までの作品363首が収められている。
つなぎたい手とつなぐはずだった手と静かな雨に包まれる夕
塗り分ける色が多くて少しずつ夏の野原じゃなくなってゆく
雉鳩と雀の声が交差する連休終わりから二番目の昼
初蟬が鳴き始めれば流れ出す編年体の夏の記憶よ
言われるがままに着替えて横たわる検査室から外は見えない
夕暮れのガラスに映るこんな目をして人混みをやって来たのか
生きていることを確認するようにボタンを押してコーヒーを買う
Amazonがわらびを買えと言ってきて寒い 言葉は人を殺せる
住む場所を何度変えても変わらない地図記号なら果樹園が好き
ポテト食べているのかケチャップ食べているのかどちらにしても
満たされぬ夜
4首目、蟬の鳴き声を聞くと、これまでの夏の思い出が甦ってくる。
6首目、ガラス窓にたまたま映った自分の生気のない表情に驚く。
8首目、アマゾンのおすすめに、なぜか表示されている「わらび」。
9首目、唐突な下句がいい。子どもの頃から好きだったのだろう。
10首目、ケチャップをたっぷり付けたフライドポテトを食べる夜。
2018年8月27日、現代短歌社、2500円。