副題は「悲しみの記憶を巡る旅」。
第一章「ダークツーリズムとは何か」から始まり、第二章から第九章は具体的な旅の記録(小樽、オホーツク、西表島、熊本、長野、栃木・群馬、インドネシア、韓国・ベトナム)、そして最後の第十章は「ダークツーリズムのこれから」という構成になっている。
ダークツーリズムとは、戦争や災害をはじめとする人類の悲しみの記憶を巡る旅である。
という定義のもとに、著者は国内外各地に残る戦争、監獄、公害、ハンセン病、炭鉱、津波などに関わる場所を訪れる。そこで繰り返し述べられるのが「記憶の承継」ということだ。
記憶の承継こそがダークツーリズムが担うべき本質的役割なのである。
東日本大震災に関する遺構の保存の是非が問われているが、この三井三池炭鉱の跡を訪れると、心の拠り所となる建物があることで、悲しい記憶が承継されやすい状況が見て取れる。
(光州事件関連の施設について)これは、地域が必死になって悲しみの記憶を残さなければ、負の記憶は権力者によってすぐに消し去られてしまいかねないという問題点を如実に表している。
記憶を受け継ぐのは簡単なことではない。歴史や過去に学ぼうとする人々の姿勢だけでなく、遺構が残っていることが大きな意味を持つ。広島の原爆ドームも戦後の一時期には取り壊しが議論されていたことを思うと、「記憶の承継」に遺構が果たす役割の大きさがよくわかる。
2018年7月30日、幻冬舎新書、820円。
悲しみの記憶にふれているのに、ほとんど調べればわかる程度の史実しか書かれていない。
著者の感度の問題か、筆力の問題かわかりませんが、重要なテーマであるのに、もったいない。
ところどころ文章が軽いのも気になりました。
ただ、「ダークツーリズム」という概念自体がまだそれほど一般には知られていないし、新書サイズの入門書なので、概略を知るには良いのではないかな。
もちろん、本当は一つ一つの問題をもっと掘り下げていく必要があるのだけれど。