2018年08月09日

「岡大短歌6」

岡山大学短歌会の短歌誌。

8首連作×12名、一首評×6名、書評×2名、20首連作×5名、16首連作×3名+評、特別寄稿8首×3名(荻原裕幸、中津昌子、松村正直)という充実した内容。全72ページ。

境界を越えようとして石化した生きものだろうテトラポッドは
                     青木千夏
泣けばいいのに泣かないからよ 妹はパン生地をこねながら笑った
                     川上まなみ
論理学受けつつ二つ隣には、眠れる森の(おそらくは)美女
                     平尾周汰
遊び方のわからぬ遊具のようにあるあなたの鎖骨のカーブにふれる
                     加瀬はる
ベランダで風化しそうな空き缶の来世のために入れる吸殻
                     水嶋晴菜
この長いシャッター街を一度だけ君の恋人みたいにゆくよ
                     長谷川麟
揺れながら咲く菊花茶のそのようにすこし困ってあなたが笑う
                     加瀬はる
これまでの旅の話をするようにヴィオラの調弦低く始まる
                     川上まなみ
義務みたいにいつも待たせたラクダ科の睫毛をもったしずかなひとを
                     白水裕子
今日はごめんと言われるなにがごめんだかわからないまま頷いてい
る                    白水裕子

1首目、海から陸に上がろうとして固まってしまったという見立て。「テトラポッド」は四本の足という意味なので、「越えようとして」とうまくつながる。
2首目、姉妹の性格の違いがよく出ている。泣くのを我慢してうまく行かなくなってしまうこともある。
3首目、大学の講義を受けている場面。机に伏せっていて顔がはっきりとは見えないが「おそらくは美女」、ということだろう。
4首目、上句の比喩が独特でおもしろい。そう言えば、鎖骨は目立つけれど何のためにあるのかよくわからない。
5首目、缶としての役割を終えた「空き缶」が、吸殻を入れることで吸殻入れに生まれ変わる。
6首目、「みたいに」なので、本当の恋人ではない。でも、たまたま二人で並んで歩く機会があったのだ。その喜び。
7首目、上句の比喩がいい。菊の花がお湯の中でほどけて開いていく様子で、相手の微妙な笑顔を喩えている。
8首目、ぽつりぽつりと話を始めるような感じで調弦しているのだろう。ヴィオラが長い旅をしてきたようにも読める。
9首目、「ラクダ科」とあるので、おとなしく優しい性格の相手。これまでデートのたびに毎回遅れことを後悔している。
10首目、おそらく今日の何か一つの出来事についてではないのだ。二人の関係のすれ違いが背後に滲んでいる。

「岡大短歌6」はネット通販もしているようです。
http://oakatan2012.blog.fc2.com/blog-entry-93.html

2018年6月28日、400円。


posted by 松村正直 at 15:46| Comment(2) | 短歌誌・同人誌 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント

どの歌も印象的、若いってすごいな・・・。

「遊び方のわからぬ遊具」は、
相手の姿かたちやら
二人の関係やらが想像できるところがいい。

「これまでの旅の話をするように」か・・・
よいですね。私は五年くらい前から
『塔』に載る川上さんの歌に注目しています。
そのうち歌集、出ますよね。
Posted by 中西亮太 at 2018年08月11日 21:53
中西さん、コメントありがとうございます。
発想や表現が新鮮な歌が多くて良い刺激を
受けます。

川上さんの歌集!
まだ歌集を出すという話は聞いてませんが、
楽しみに待ちたいですね。
Posted by 松村正直 at 2018年08月11日 22:24
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