副題は「自力でビルを建てる男」。
岡啓輔は東京都港区三田に、地下一階、地上四階の鉄筋コンクリート造のビルを自力で建てている。その名も「蟻鱒鳶ル」(ありますとんびル)。
本書には岡の生い立ちや建築に対する考え方、そして蟻鱒鳶ルに込めた思いなどが記されている。テンポの良い文章で書かれているが、おそらくこれはフリーライターの萱原正嗣(構成)の手によるものだろう。
岡は「自力で」ビルを建てているだけではない。それは「二百年もつ」頑丈なビルであり、「即興の建築」なのだ。「建築を、踊るようにつくれないものだろうか……」などと考えるかなりの変人である。
建築の世界でも、思考と表現を交錯させれば、もっとおもしろい建築が生まれてくるのではないだろうか――。踊りを学び続けるうち、次第にそう考えるようになってきた。
形ができあがった悦びをエネルギーに変え、それをイメージの源泉に、建築の次なる部分をつくり上げる。ひとつの床や壁をつくった悦びを土台に、その上に建築を即興的に積み重ねていく。
「蟻」と「鱒」と「鳶」は、それぞれ陸・海・空を生きる動物だ。ということは、「蟻鱒鳶ル」には、陸と海と空のすべてが宿る。僕は「蟻鱒鳶ル」をつくることで、「世界」を表現することができるのではないか――。
突拍子もないふざけたことを言っているようでいて、いたって真面目な情熱家だ。2005年に着工したビルは現在、「三階の壁が半分ぐらい」までできたところ。完成を迎える日はいつになるのだろうか。
2018年4月24日、筑摩書房、2200円。