著者は啄木が幼少期を過ごした渋民の宝徳寺に生まれ育った方。
啄木とふるさと渋民の関わりを中心に論じた一冊である。
啄木の短歌を考える際に、父や伯父からの影響は無視できないだろう。
しかし一は、生まれた時から歌人群のなかで成長してきたといってよい。
啄木が四千首に及ぶ歌稿『みだれ芦』を編んだ歌人としての父をもったこと、また歌人対月の妹を母としたこと、この血のつながりが彼をして文学、なかんずく和歌に向かわした要因であることは論をまたない。
啄木の父一禎には謎が多い。宗費滞納で住職を罷免されたり、啄木一家の生活が苦しくなると家を出て行ったり、「ダメ親父」として描かれていることが多いが、それは一面的な見方のような気がする。
1971年6月15日初版発行、1979年7月30日改訂版発行。
八重垣書房、1500円。