2008年に第51回短歌研究新人賞を受賞した作者の第1歌集。
「まひる野」所属。
燃えやすきたばこと思ふそのひとが吸ふこともなくしづかに泣けば
炊飯器 抱くにちやうど良きかたち、あたたかさもて米を炊きたり
落ち葉のやうに切符を溜めて改札のひとつひとつに森ふかくあり
非常勤なれば異動といふことば使はぬままに別れを言へり
会ふたびに左手の傷に触るるひとうすくちひさき痕となりても
冷蔵庫の出口に近きたまごから順に食はれて最後のひとつ
ぶらんこで遊ぶひとなし ゆふやみにまなこ閉づればぶらんこもなし
雪の予報の出てゐる朝(あした) 収集車はごみに積もれる雪も運ばむ
すきなひとがいつでも怖い どの角を曲がってもチキンライスのにおい
ドーナツを半分にまた半分に方向音痴なひとの朝食
1首目、灰皿に置かれた煙草が黙々と燃えているところ。
3首目、切符回収の箱のなかに一枚一枚と溜まっていく。
4首目、契約期間が終われば退職となる不安定な身分。
7首目、何とも不思議な感じの歌。残像だけがまぶたに残る。
10首目、ドーナツの円形が方位や方向をイメージさせる。
空欄(しろ)に×(あか)、あはれむやみにあかるくて授業内容をわれ
はうたがふ 『かざぐるま』
雪に傘、あはれむやみにあかるくて生きて負ふ苦をわれはうたがふ
小池光『バルサの翼』
答案が憎いよ月夜 鍵穴にさしつぱなしの鍵つめたくて
『かざぐるま』
ああ君が遠いよ月夜 下敷きを挟んだままのノート硬くて
永田紅『日輪』
こうした本歌取りが何首かあるのだが、残念ながらどれも出来の悪いパロディとしか思えなかった。
2018年6月15日、短歌研究社、2000円。