2018年07月29日

「塔」2018年7月号(その2)

 足場屋さん塗装屋さんに屋根屋さん床下さん来てわが家にぎはふ
                        吉田京子

家の改築などをしているところだろう。「○○屋さん」という言い方が、作業現場の感じをうまく出している。「床下さん」というのは何をする人かな。

 日傘さす婦人を先に通したり誰もいなくなりアクセルを踏む
                        矢澤麻子

道路を渡ろうとしている人がいて、車を止めて譲ったところ。その後のすっきりしたような開放感が下句に出ている。真っ直ぐな道が続くのだろう。

 みどりいろの固き契りを裂くように二つに分ける蚊取り線香
                        和田かな子

二本の蚊取り線香が互い違いに組み合わされて円盤状になっている。それを一本ずつに分ける時のすんなりと行かない感じをうまく表している。

 リハビリに通ひ来し人九十五で焼死したりと娘が嘆く
                        西山千鶴子

娘さんはリハビリ施設で働いているのだ。せっかくリハビリを頑張っていたのにという無念の思い。身体は不自由で逃げ遅れたのかもしれない。

 始まりと終わりが混ざった朝五時の電車に始まるほうとして乗る
                        紫野 春

始発に近い電車には早朝から仕事に出掛ける人もいれば、徹夜明けで家に帰る途中の人もいる。七時くらいになると通勤・通学の人ばかりになる。

 対岸に手を振る子ども池の辺はめぐりてかならず出会えるところ
                        森川たみ子

池に沿って二人で反対側に歩いて行っても、必ずどこかでまた会える。でも、今は無邪気に手を振っている子ともやがては別れの日が来るのだ。

 表札がはつきり読めるわが家のストリートビューに真夏の日差し
                        山縣みさを

自宅の画像がネットで見られることに危惧を覚えるのだろう。まるでリアルタイムで映っているみたいだが、実際には真夏に撮影されたものである。

posted by 松村正直 at 07:04| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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