昨年、第60回短歌研究賞を受賞した作者の370首を収めた第1歌集。「かばん」所属。
家族つてかういふものか ふるさとの桃や葡萄はみんなまあるい
凍てついた滝のごとくにビルならび色とりどりの裸身を映す
簡単に土下座できるといふ君の鶏冠のごとき髪を撫でたし
それでもなほ海が好きだと言ふひとのくちびるだから荒く合はせる
君といふ果実をひとつ運ぶためハンドル握る北部海岸
ソドミーの罪の残れる街をゆく鞭打つごとき陽に灼かれつつ
無地、それもモノクロームのTシャツを湿らせながら坂駆けてくる
網戸とは夜の虫籠 一匹の蠅ゆくりなく囚はれてゐる
なにもかも打ち明けられてしんしんと母の瞳は雨を数へる
窮鼠われ猫を嚙まずに生きてきてふたり仲良くお茶飲んでゐる
1首目、「家族」という制度や無言の圧力に対する違和感。
2首目、初・二句の比喩が印象的。ガラス張りの高層ビル。
3首目、君の経てきた人生が想像され、痛々しさを覚える歌。
4首目、初句「それでもなほ」という入り方が面白い。
5首目、「君=果実」を大事に思っているのだろう。
6首目、マレーシアでは同性間の姓行為は犯罪で、鞭打ち刑が科される。
7首目、女性ではなく男性の恋人の姿。
8首目、網戸とガラス窓の間に閉じ込められているのだろう。
9首目、ゲイであることを打ち明けた時の母の様子。
10首目、追い詰められても我慢してきた歳月を感じさせる。
ゲイであることを公表している作者ならではの歌も多く、LGBTに対する理解を深める一助にもなる歌集だろう。なぜか二人の解説が載っているが、これは一人で十分だったように思う。
2018年5月21日、短歌研究社、2000円。