2018年07月19日

伊藤一彦歌集 『光の庭』

著者 : 伊藤一彦
ふらんす堂
発売日 : 2018-06-12

副題は「短歌日記2017」。
ふらんす堂のHPで一日一首発表した連載をまとめた第15歌集。

この「短歌日記」は遅くとも前日までに原稿を編集部に原則としてメールで届けることになっており、その点は苦労した。当日に見聞したことを短歌に詠むのではなく、計画や予定で前もって短歌を詠み、文章を書かざるを得なかったからである。

と、あとがきで舞台裏が明かされている。こういうところ、伊藤さんは正直だなあと思う。

短歌に添えられた文章も「今日は午後の飛行機で名古屋空港に。そのあと中津川まで行く」「座談会を行うことになっている。楽しい会になりそうだ」など、予定として書かれているものが散見する。

背の薪燃えてゐるとはつゆ知らぬ雑踏の中にわれもその一人
目薬をさしてしばしを目つむれるあひだ心神(しんしん)深くのうみつ
イハレビコ去りにけるのり残りたる芋幹木刀(いもがらぼくたう)と日向南瓜(ひうがかぼちや)よし
合ふはずと思へば合ひぬ宮崎のワインと根室の天然帆立貝
辞書見れば「ふち」には淵(ふち)と縁(ふち)とありあやふき「ふち」に行く人は行く
文華堂、大山成文館、田中書店 一軒も今は無くさびしきよ
刺し違ふるごとく間近を走りあふ電車のはらわたの中にゐる
食事中に箸おいてふと黙りこみ「時間」旅してをりし母の眼
老いるほど肌(はだへ)つやつやしてくるは人間ならず檳榔(びらう)樹の話
山のみづと海のみづとが恋しあひひとつになれる耳川河口

3首目、昔九州旅行に行った時にバスガイドさんから教わった民謡を思い出した。♪もろたもろたよいもがらぼくと日向かぼちゃのよか嫁女〜
6首目、全国各地の書店が次々となくなっている現状。
7首目、電車同士が高速ですれ違うことができるのは線路が敷かれているため。車だったら大変だ。
10首目、耳川の河口は美々津の町。若山牧水が初めて海を見たのもここである。

2018年6月9日、ふらんす堂、2000円。

posted by 松村正直 at 19:21| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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