2018年07月15日

『文庫版 塚本邦雄全歌集 第一巻』 (その2)


鞦韆(しうせん)に搖れをり今宵少年のなににめざめし重たきからだ
イエスは三十四にて果てにき乾葡萄嚙みつつ苦くおもふその年齒(とし)
獸園に父ら競ひて子に見しむうすKき創あまたある象
死者なれば君等は若くいつの日も重装の汗したたる兵士
湖水あふるるごとき音して隣室の年が春夜髪あらひゐる

第2歌集『装飾樂句(カデンツア)』より。
2首目、イエスの死んだ年齢を過ぎてしまったという感慨である。

昇降機下(お)りゆくなかにきくらげのごとうごかざる人間の耳
憂鬱なる母のたのしみ屑苺ひと日血の泡のごとく煮つめて
熱の中にわれはただよひ沖遠く素裸で螢烏賊獲る漁夫ら
處刑さるるごとき姿に髪あらふ少女、明らかにつづく戰後は
殺意ひめて生きつつ今日は從順に胸部寫眞を撮らるる梟首(けうしゆ)

第3歌集『日本人靈歌』より。
5首目、胸部X線撮影の姿勢を「梟首」(さらし首)に喩えたのが印象的。

2018年2月3日、短歌研究社、2200円。


posted by 松村正直 at 20:45| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。