「石川啄木の作品を多年にわたり読みこんできた事については啄木の研究者に劣らないと自負している」と述べる著者の528ページに及ぶ本格的な啄木論。
第一部は啄木の生涯を描き、第二部で詩・短歌・小説・「ローマ字日記」を取り上げて論じている。
この本の印象的なところは、著者の見方や評価をはっきりと断定的に述べているところだ。
私はこれら諸家の『あこがれ』評(低い評価:松村注)に同意できない。
これら二篇の詩は、わが国の詩史上、注目すべき作品である。
明治期の短篇小説の中で、石川啄木の「天鵞絨」を珠玉の一篇として推すことを私は躊躇しない。
私は「鳥影」をすぐれた作品とは考えていないし、「雲は天才である」は未完結であり、かつ失敗作と考える。
良いものは良い、悪いものは悪い。小気味よいくらいに明確に評価をくだした上で、その理由を丁寧に説明している。
石川啄木ほど誤解されている文学者は稀だろうと私は考えている。
こうした思いを抱く啄木愛好家や啄木研究者は多いのだろう。啄木関連の本は数百点〜数千点にのぼり、しかも今も毎年何点も新刊が出ている。それだけ多面的で評価が分かれ、実像が摑みにくいということなのかもしれない。
2017年5月1日、青土社、2800円。