特集は「服部真里子」。
新作20首「花野まで」、エッセイ「道をそれて」、『行け広野へと』30首選、『行け広野へと』以降30首選、歌人論、1首鑑賞、フォトギャラリー、インタビュー、年譜といった充実した内容となっている。
でも冬は勇気のように来る季節迎えに行くよまぶしい駅へ
夜の底には精製糖が溜まるから見ていよう 目を閉じても見える
「花野まで」
音もなく道に降る雪眼窩とは神の親指の痕だというね
『行け広野へと』
死者の口座に今宵きらめきつつ落ちる半年分の預金利息よ
『行け広野へと』 以降
エッセイは3年前に亡くなった父の話。
父はどうだったのだろう。道をそれた先に、「乳と蜜の流れる土地」はあったのだろうか。家族という組織は、その構成員だった私は、「乳と蜜のある土地」へ、父を導くことはできたのだろうか。
このあたり、自分の育った家族のことが頭をよぎってグッと来る。
これは、永遠に答の出ない問いのような気がする。
大森静佳さんの歌人論「信じようとすること―『行け広野へと』の不安と意志」の中の初句切れについての分析も良かった。
初句切れというのはある意味で何かを信じる気持ちの強さと関係がありそうだ。迷いや逡巡は初句切れの歌を生まない。あるいは心の奥に迷いがあっても、それを勢いよく捨て去ろうとする意志の力。
なるほど、確かにそうかもしれない。
2018年6月1日、500円。