副題は「「常識」に殺されない生き方」。
著者は盛岡の「さわや書店」で働きながら、2016年に「文庫X」という手書きカバーを付けた本(清水潔著『殺人犯はそこにいる』)を大ヒットさせた書店員である。
まずは「文庫X」という企画が生まれた経緯や、現在の書店の置かれている状況についての話がある。
そういう仕掛けを生み出そうとする時には、お客さんが求めているものをリサーチして、それに応えようとするやり方は、良い成果を生まないだろう。(・・・)良い企画とは、お客さん自身ですら自覚していない潜在的な欲求を満たすものだと僕は考えているからだ。
どう街と関わっていくのか、というスタンスを常に持ち続けているという土台が、さわや書店という本屋の、そして盛岡という街の背景になっている。そのことは、「文庫X」という企画の根っこを支える環境として指摘しておくべきことなのかもしれないと思う。
さらには、著者の生い立ちや考え方、生き方についての話も載っている。
生きていれば、様々な状況に置かれることになる。なんでこんなことに、という受け入れがたい状況もあるだろう。しかし、それらは自分の目の前にある時点で既に正解であって、認める認めないの問題ではなく、まず受け入れなければ話が進んでいかない。
「共感」というのは多くの場合、「今の自分」の判断でしかない。つまり、「共感」を求めれば求めるほど、「今の自分」を超えたものに出合う機会が狭まる、ということでもあるのだ。
どんな集団であれ、様々な考え方を持つ人間がいることが、その集団全体の「自由」を生み出しているのだな、ということです。多様な考え方に触れる環境は、まさに「未知のもの」と出合える環境でもあります。
本書を貫くキーワードは「常識」「先入観」「普通」「共感」「孤独」「自由」。
「文庫X」の話にとどまらず、現在の、そして今後の社会を生きていく上で著者が大切だと考えることが繰り返し述べられている。
僕はかつて1年間だけ短歌をやっていた時期がある。五七五七七の、あの短歌だ。ちゃんと数えたことはないから適当だが、1年間で500〜1000首ほどは作っただろう。
なんと、短歌を作っていたとは!
ぜひ、また短歌にも取り組んで欲しいなあ。
2017年7月10日、中公新書ラクレ、840円。