17年ぶりに刊行された第4歌集。328首収録。
ふたまたに割れたおしっこの片方が戒厳令の夜に煌めく
水筒の蓋の磁石がくるくると回ってみんな菜の花になる
先生がいずみいずみになっちゃってなんだかわからない新学期
それぞれの夜の終わりにセロファンを肛門に貼る少年少女
2号車より3号車より美しい僕ら1号車のガイドさん
先生が眠ってしまった教室の黒板消しにとまってる蝶
夜の低い位置にぽたぽたぽたぽたとわかものたちが落ちている町
胡桃割り人形同士すれちがう胡桃割り尽くされたる世界
今日は息子に「ひかげ」と「ひなた」を教えたというツイートが流れる夜は
からっととへくとぱすかる愛し合う朝の渚の眩しさに立つ
1首目、確かにたまに「ふたまた」になる。戒厳令下の立ちションの美しさ。
2首目、すっかり忘れていた記憶が甦ってきて懐かしい。
https://suzurandou.ocnk.net/product/14324
3首目、結婚して姓が「泉」になったのだろう。
4首目、朝一番に行う蟯虫検査用のセロファン、あの独特な感触。
5首目、自分たちの乗るバスのガイドさんが美人だと嬉しかったものだ。
6首目、幻想的な味わいのある歌。(こういう歌がもっとあればいいのに。)
7首目、溜り場でしゃがみ込んでいる若者たち。
8首目、下句の句跨りのためにあるような一首。割るべき胡桃を探して人形たちは町をさまよい続ける。
9首目、抒情的な味わいのある歌。(こういう歌がもっとあればいいのに。)
10首目、なぜかデ・キリコの「ヘクトルとアンドロマケ」を思い出した。
https://www.musey.net/5328
読み終えて、何とも言えない寂しさで胸がいっぱいになる。
キラキラしていた夢の抜け殻、思い出の標本箱。
2018年5月21日、講談社、2300円。