2018年06月08日

「塔」2018年5月号(その2)

 つぎつぎと二枚の札を裏返しゆく五歳児の短期記憶は
                       吉田 典

トランプの神経衰弱をしているところ。ある時期までの子どもは無闇矢鱈と神経衰弱が強い。それを「短期記憶」と表現したのが的確でおもしろい。

 住宅街のせたる丘の擁壁が波打つやうに長くつづけり
                       野 岬

丘が切り拓かれて新しく住宅地になったのだろう。もし擁壁が崩れたら町ごと崩れ落ちてしまうような危うさを感じる。「波打つやうに」がいい。

 球を打つ体のリズムの慣れてきて妻とのラリーは意外と続く
                       熊野 温

夫婦で卓球をしているところ。「意外と」に実感がある。二人とも別に上手なわけではないのだが、一定のリズムで返球するだけなら結構続くのだ。

 保育園に津波訓練あるという寝返りはじめしみどりごたちにも
                       齋藤弘子

東日本大震災後、各地で津波訓練が定期的に行われている。歩くことのできない人が大勢いる保育園や病院、介護施設などは本当に大変だと思う。

 パレットにのばす絵具のぎりぎりの性善説を信じていたい
                       高松紗都子

初二句が「ぎりぎりの」を導く序詞のように働いている。薄く伸びてパレットの地が見えそうな絵具。でも、辛うじて人間の本性が善であると信じる。

 鳥よりも畑の上を行く影の方がスピードありて過ぎたり
                       川口秀晴

畑で作業をしている時に大きな影がすーっと過ぎったのだろう。見上げれば鳥が飛んでいる。「影の方がスピードありて」に鮮やかな臨場感がある。

 給餌する合図を聞けば整然とスタンチョンに入る強い牛から
                       別府 紘

「スタンチョン」は牛の首を挟んで安定させる柵状の止め具。「強い牛から」とあるので、牛の集団にも序列があるのだろう。黙々と従う怖さも感じる。

posted by 松村正直 at 07:04| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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