現代歌人シリーズ22。
2013年から2017年までの233首を収めた第2歌集。
まずは前半から。
あなたはわたしの墓なのだから うつくしい釦をとめてよく眠ってね
ビニール傘の雨つぶに触れきみに触れ生涯をひるがえるてのひら
見たこともないのに思い出せそうなきみの泣き顔 躑躅の道に
だって五月は鏡のように深いから母さんがまたわたしを孕む
早送りのように逢う日々蒼ざめた皿にオリーブオイルたらして
ふる雪は声なき鎖わたくしを遠のくひとの髪にもからむ
頭蓋骨にうつくしき罅うまれよと胸にあなたを抱いていたり
手をあててきみの鼓動を聴いてからてのひらだけがずっとみずうみ
1首目、初二句にまず驚かされる。行き着く場所、安らぐ場所といった意味か。優しい口調の中に究極の愛の形としての死のイメージが表れる。
2首目、雨に濡れた傘を畳んで部屋に入りきみに触れる。下句の「ひる/がえる」の句跨りにてのひらの動きを感じる。「生涯を」という把握も独特。
3首目、「想像できそうな」なら普通だが、ここでは「思い出せそうな」。燃えるように咲く躑躅の光景に、きみの泣き顔が重なって浮かび上がる。
4首目、「だって」という唐突な入り方がおもしろい。毎年5月が来ると、新しい自分が生まれるような、自分が更新されるような感じがするのだろう。
5首目、何度も立て続けに相手と会う日々が続く。下句は料理を食べているところか。映像の「早送り」とオイルの垂れる感じがかすかに響き合う。
6首目、降る雪の軌跡が鎖のように見えるのだ。雪は相手の髪に降りかかり、まるで意志を持っているかのように相手を捕えて離さない。
7首目、頭蓋骨に刻まれた罅は外からは見えないが永遠に消えることはない。力強く胸に抱きしめながら、自らの愛を相手の身体に刻印する。
8首目、鼓動とは命のリズムである。きみと離れた後もずっとてのひらに鼓動が脈打ち続けているのだろう。湖の清らかさと波立ちを感じる。
口語・文語をまじえた多様な文体と新鮮な表現によって、感情の深い部分を言葉に乗せている。一首一首の完成度に加えて連作の構成も良く、非常に密度の濃い一冊となっている。
2018年5月15日、書肆侃侃房、2000円。