2018年05月05日

ラヷとは?


与謝野晶子の歌を読んでいると「ラヷ」という言葉がしばしば出てくる。「ラブ」ではなく「ラヷ」。「ワ」に濁点が付いている。

ラヷ落ちて欠けたる湖水全きに変ることなく哀れなりけり
                    『瑠璃光』
ラヷ尖(とが)り椿の木立ことやうにあをき土用の八丈がしま
                    『深林の香』
軽井沢昨日のラヷは朱に乾き藍むらさきす新らしき霾(よな)
                    『緑階春雨』
から松がラヷの色して枯れ行く日信濃に入りぬ先生の許(もと)
                    『山のしづく』
ラヷの路たとへて云へば沙弥達の麻のころもの荒き手ざはり
                    『草と月光』

それぞれ、西湖、八丈島、軽井沢、碓氷峠、山中湖を旅した際の歌である。

内容から考えると、これは英語のlava(=溶岩)のことらしい。今ではカタカナ英語で「ラヴァ」と言ったりはしないが、戦前は一般的な言い方だったのだろうか。

posted by 松村正直 at 11:24| Comment(4) | メモ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
引用歌、どれも知りませんでした。「ラワ"」を当たり前のように使っていますね。「ラワ"の色して」なんて、比喩! 当時はまずまず使用されていた言葉と考えないと説明がつかない。カタカナ語は現代の方が豊富だと思いがちですが、必ずしもそうでないところがおもしろいですね。

そういえば「熔岩」にラバなどとルビを振る例は、大正・昭和の詩文ではときどき見かけます。ちょっと思い出したところでは篠原鳳作の

 熔岩の月やうやく高きキヤンプ哉

あと、これは晶子の参考にはならないかもしれませんが、葛原妙子の第一歌集が1950年刊で、

 霧襲ふ溶岩を攀れる二つの影呼応かすかにやがてへだたらむ
 をみなへし尺ばかりなる山頂の溶岩に坐りて二人なれども

いずれも「ラバ」のルビ付きです。でも、晶子はルビじゃなくて、いきなり「ラワ"」ですからね。
Posted by 中西亮太 at 2018年05月06日 12:29
中西さん、情報ありがとうございます。
青空文庫で検索してみたところ、随筆や小説等でもいくつか用例が見つかりました。

・和辻哲郎「エレオノラ・デュウゼ」(明治44年)
やがて時が迫って来て彼女の特有な心持ちにはいると、突如全身の情熱を一瞬に集めて恐ろしい破裂となり、熱し輝き煙りつつあるラヴァのごとくに観客の官能を焼きつくす。

・板倉勝宣「山と雪の日記」(大正8年)
梓川は細長い上高地の平原を、焼岳の麓まできた時に、神の香炉から流れ出たラヴァはたちまちにその流れを阻んだ。

・宮本百合子「伸子」(大正13年〜15年)
噴火口は、頂上の横穴のようなところにあった。灼熱した硫黄が、燃え立つラバとなってそこから流れ出している。

・寺田寅彦「二つの正月」(昭和5年)
下り坂の茶店で休んだときにそこのお神さんが色々の火山噴出物の標本やラヴァやカメーの細工物などを売付けようとしたが


ある程度使われていたのは確かなようですね。

Posted by 松村正直 at 2018年05月06日 13:21
もうお調べになったかもしれませんが、私もすこしだけ本を見てみました。日本国語大辞典第二版で「ラバ」を引くと、用例は古い順に、

1851-58年 ラハ 川本幸民訳『気海観瀾広義』
1881-84年 ラバ 成島柳北『航西日乗』
1905-06年 ラワ" 夏目漱石『吾輩は猫である』
1909年 熔岩(ラヴ) 北原白秋『邪宗門』

「ようがん」を引くと

1894年 熔岩 志賀重昂『日本風景論』
1902年 熔岩 『風俗画報』254号
1910年 熔岩 森鴎外『杯』

さらに歌代勤・清水大吉郎・高橋正夫『地学の語源をさぐる』(東京書籍、1978年)を見ると、「熔岩」の用例は

「文献では坂市太郎(明治20年・1887)がもっと早いようである」

とあります。これによれば、カタカナ語の「ラバ」等の方が「熔岩」よりも古く、ある時期までは優勢のようです。学校教育でも、当時は「ラバ」が使用されていたのではないでしょうか。晶子が当然のように「ラワ"」と記すのも納得されます。
Posted by 中西亮太 at 2018年05月11日 12:05
なるほど、「ラバ」の方が「熔岩」よりも古くからある言葉なのですね。
当初は「ラバ>熔岩」だったのが、ある時期から「ラバ<熔岩」になって、やがてラバは駆逐されてしまったということなのでしょう。
言葉の移り変わりがよくわかって、面白いです。

Posted by 松村正直 at 2018年05月13日 06:23
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