新鋭短歌シリーズ38。
337首を収めた第1歌集。
八階のコピー機の裏で客死するコガネムシその旅の終わりに
ランチへゆくエレベーターで宙を見る七分の三は非正規雇用
割箸がじょうずに割れる別の世で春の城門がしずかに開く
飛ぶ力を失いながら遠くなる水切りの石を見ればくるしい
次々に「知ってました」と口を割る鍋でぐつぐつ浅蜊を煮れば
改札の外で人みな空を見て羽撃くように開く雨傘
ひさびさに光を浴びて末っ子のマトリョーシカの深呼吸かな
岬に立ついまは無人の灯台にいつも閉まっている窓がある
とんかつのキャベツの盛りが高くなり今年も春が来たことを知る
ストラップの色で身分が分けられて中本さんは派遣のみどり
1首目、「客死」という語の選びがいい。
3首目、三句以下はファンタジーやゲームの世界のイメージ。
6首目、確かに翼を広げるような感じである。
7首目、普段は一番内側に閉じ込められている一番小さな人形。
8首目、人がいなければ窓も必要がないのだ。
発想がユニークで、特に職場詠、仕事詠に良い歌が多い。その一方で、全体に「いかにも」といった感じのわかりやすさに仕上げられているのが惜しい気がする。
2018年4月16日、書肆侃侃房、1700円。