2018年04月25日

「塔」2018年4月号(その2)


 二番目にお待ちの方というものにどういうわけか私はならず
                      八鍬友広

行列ができているレジとは別のレジが開く時に、コンビニの店員さんがよく使う言葉。たまたま、偶然なのだろうが、何か性格的なものも感じさせる。

 膝と膝かすかに触れたとき俺のだれにも見せぬ空が見えたか
                      田村龍平

胸の深くに秘めている自分だけの思いや記憶が、一瞬、相手に垣間見られたような感覚を覚えたのだろう。相聞の雰囲気が濃厚に感じられる。

 寝室のテレビ小さし大晦日の晩にひとりで見る格闘技
                      垣野俊一郎

居間にある大きなテレビでは家族が紅白歌合戦などを見ているのかもしれない。おそらく家の中で格闘技に興味があるのは作者だけなのだ。

 若干名募集してゐる工場より漂ひ来たるカレーの匂ひ
                      川田果弧

「若干名募集」という貼紙か看板があるのだろう。古びた雰囲気の工場。その敷地から流れてくる昼食時のカレーの匂いが、わびしさを感じさせる。

 火を見れば表情のなきひととなるみなそれぞれの語彙をしづめて
                      石松 佳

焚火やキャンプファイヤーの火を見ているところ。「表情のなき」がいい。誰もが無口になって炎のゆらめきに吸い込まれるように見入っている。

 「女医さんは、やっぱり」その後に続くあらゆる言葉の枷のくるしさ
                      長月 優

「女医」と言っても一人一人性格も考え方も違うのに、常に何らかの先入観や偏見にさらされる。それがたとえ褒め言葉であっても息苦しい。

 硬筆の手本のやうなる文字書きて君は退会告げてくるのか
                      三浦智江子

後足で砂を掛けるような辞め方ではなく、丁寧で礼儀正しい相手。そのことが一層「退会」に当っての相手の思いを伝えているようで寂しい。

 OLとして暮れてゆく金曜日チーズケーキの断片を食む
                      魚谷真梨子

月曜日から金曜日まで今週もずっと仕事ばかりしてきたなという思い。ほっと一息つく場面だが、「断片」という言葉にやるせなさが滲んでいる。

 女子会の終はつたばかりのレストラン椅子むきむきにありてさみしも
                      山縣みさを

まだ椅子が元通りに直されていない状態のテーブル。「むきむきに」という言葉がいい。さっきまでの賑やかさの痕跡だけが残っている。

posted by 松村正直 at 08:17| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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