副題は「日韓ロ百年にわたる家族の物語」。
戦後、様々な理由によりサハリンに残った日本人10名のライフヒストリーを描いた本。著者の二人はそれぞれ在外コリアンと在外ロシア人の研究者である。
敗戦時、樺太には約40万人の日本人と朝鮮人がいたが、内地に引き揚げが認められたのは日本人だけであった。そのため、朝鮮人男性と結婚した日本人女性や、朝鮮人の養父母に預けられた日本人などは家族と離れることを望まずサハリンに留まる人も多かった。
冷戦が終結した1990年代以降に日本や韓国への永住帰国の道が開かれ、彼女たちはまた様々な選択を迫られる。子や孫を伴って日本へ帰国した家族、夫婦だけで日本に帰国してサハリンや韓国の子どもたちと行き来する家族、サハリンでの生活を選んだ家族。そこにはそれぞれの家族に固有な物語がある。
彼女たちの物語を読んでいると、「民族」「国籍」「言語」「居住地」が移り変わり、何重にも交錯している。
彼女の母語はロシア語、家族の伝統は朝鮮式で、母方の祖母が日本人であることで現在は日本で暮らしている。
この日、デニスの「トルチャンチ」を開いてくれたのは、美花の父方の祖母であるキム・ヨンスンだ。サハリンのマカロフに住んでいるヨンスンは、日本に永住した孫の結婚式やひ孫の誕生日にはかならず駆けつけ、朝鮮の伝統を伝える。
よし子はヨンジャという朝鮮式の「本名」よりも、日本式のよし子やロシア式のレーナの方が好きだ。
こうした日本・ロシア・韓国にまたがる家族の姿は、もちろん戦争のもたらした悲劇ではあるのだけれど、その一方で人間の生きる力を感じさせる事例でもある。それはまた、国民国家という枠組みを超えて東アジアの国々が交流を深めていく一つのヒントにもなっているように感じられた。
2016年3月31日、高文研、2000円。