2018年04月03日

藤原勇次歌集 『草色の手帳』


2000年から2008年までの作品473首を収めた第1歌集。
十年前の歌で終っているのが珍しい。

居酒屋は客も主も死者どちにしたしく呑みつふとき指もて
夫婦にて古書を商ふエイス書房は店を閉めたり大学移転に
分骨をするかのやうにコピーする地下閲覧室の遺稿集の句
托鉢の僧侶の草鞋にふる雪は足指あかく染めぬきてをり
寒漁の川をかづきてうく鳰を三次(みよし)の漁師はヒョウスケと呼ぶ
あすは首にメスいれらるる君と来つ韮の花さく馬洗川べり
病みゐても白樺の木を切らさるるマイナス8℉のラーゲリの冬
病室に米寿の父をとりかこむ十八人と大きな真鯛
銭湯は酒房となりつ座りゐるここは男湯、富士ゑがかれて
夜の授業を終へたる生徒のトラックが大根のせて神戸にむかふ

1首目、亡くなった人の話をしながら酒を酌み交わしている場面。
2首目、学生や教員の客が多かったのだろう。
3首目、遺稿集だからこそ「分骨」という比喩が効いている。
4首目、裸足の指が寒さで赤くなっているのだ。
5首目、「ヒョウスケ」が軽妙で面白い。風土性と生活感がある。
6首目、妻の手術前の様子。下句の明るさが印象的だ。
7首目、シベリアに抑留された父が体験した出来事。摂氏に換算するとマイナス22℃。
8首目、入院中の父の米寿祝いに親族一同が集まったところ。
9首目、銭湯であった時の雰囲気が随所に残っている。
10首目、作者は定時制高校の教員。生徒の姿がよく見えてくる歌だ。

2018年3月1日、青磁社、2500円。

posted by 松村正直 at 06:13| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。