2018年03月30日

「塔」2018年3月号(その2)


 各々がムンクの叫びの顔に似て捩れていたりトロ箱の牡蠣
                      谷口美生

牡蠣の形や模様、襞の様子などをムンクの「叫び」に喩えたところが独特だ。トロ箱の中に無数の「叫び」がひしめき合っているようで怖い。

 身の程をわきまえてゐます、イングリッドバーグマンいふ昼の画面に
                      松原あけみ

映画の台詞が字幕に表示されているのだろう。「身の程をわきまえる」という少し古風な日本語と洋画の取り合わせに奇妙な味わいがある。

 予告編から鼾がずっと聞こえてくるオリエント急行列車で殺人です
                      鈴木晶子

昨年新たに公開された映画「オリエント急行殺人事件」。映画館で客がずっと寝ているうちに、映画の方はいよいよ山場を迎えているのだ。

 竹鼻町(たけはなちやう)狐穴(きつねあな)とふ交差点差しかかるとき赤の灯ともる
                      伊藤京子

地名の面白さが最大限に発揮されている歌。信号に表示されている交差点名によって、まるで狐に化かされているような味わいが生まれる。

 予約席九人分のスプーンとフォーク置きありまだ誰も来ず
                      森尾みづな

何かの会食が予定されている場面。九人来ればきっと賑やかだ。今は静かなテーブルに、スプーンやフォークが動き始める様子が想像される。

 チンアナゴの前にのりだす子どもらの細きうなじは左右にゆるる
                      栗栖優子

チンアナゴが砂地から頭を出して水中にゆらゆらしている生き物。それを見ている子どもたちの姿も、どことなくチンアナゴに似ている。

 手をつなぐふたりがたのむタピオカのミルクの底にまるいつぶつぶ
                      吉原 真

恋人同士なのだろう。二人の仲の良さそうな雰囲気がよく伝わってくる。「つ」や「た」の音の響きが効果的で、いかにも楽しそうな感じがする。

posted by 松村正直 at 07:25| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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