2018年03月29日

「塔」2018年3月号(その1)


 黒猫と郵便局とエホバ来てしばしののちに初雪のふる
                      落合けい子

一日中家にいたのだろう。「黒猫」はヤマト運輸の配達、「エホバ」はエホバの証人の勧誘。下句の「初雪」が時間や余韻を感じさせるところが良い。

 「冷たい」は「爪痛し」が語源なり松の先より落つる玉水
                      石原安藝子

冬の寒い時期の松の葉から雨滴が垂れているところ。上句と下句は別々のことだが、「松の先」と「爪」がどちらも先端であるというつながりだろう。

 いいよいいよと言いても謝り来る人の暴力に似た眼差しを受く
                      金田光世

必要以上に謝られるのは、あまり気分の良いものではない。それを「暴力に似た」と捉えたところが鋭い。ある種の押し付けがましさを感じたのだ。

 あくびせる女人のかほの変形のきはまりてすぐ元に戻れり
                      佐藤陽介

「変形のきはまりて」が強烈な印象を残す。単にあくびをするのを見たというだけの歌なのだが、表情の変化を即物的に描き切ったところが面白い。

 化学株は化けると言はれ求めしも化けざる儘に二十年過ぐ
                      柳田主於美

「化ける」は大幅に値上がりする、儲かるという意味だろう。期待して買って二十年間持ち続けているのに、一向に値上がりしないままなのだ。

 おおかたは光に透けるレタス葉のように新聞人生相談
                      福西直美

「レタス葉のように」という比喩に意外性がある。深刻そうに見えてそれほどでもない相談内容や、当り障りのない識者の回答などをイメージした。

 ストーブの上の鍋からよそわれて蕎麦屋でいただく昆布の佃煮
                      吉田 典

ストーブの上で温められていた佃煮。蕎麦に付く小鉢、あるいはお店の人がサービスで付けてくれたのかもしれない。庶民的な雰囲気の店だ。

posted by 松村正直 at 06:19| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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