518首を収めた第14歌集。第33回詩歌文学館賞受賞。
旅の歌が多く、中でも牧水ゆかりの地を訪れた歌がたくさんある。
十五夜はすべての人が近くしてかつ遠きかな川面光れり
繊き道あまた広がり尽きてゐる掌(たなごころ)見ぬ夜寝るまへに
つぎつぎに寄せてくれども続く波もたぬ殿(しんがり)の波白くあり
ひとりゐるわれのうしろに誰かゐるいまだ知らざる人のごとくに
近寄らず眺めゐにけり月の夜の竹のはやしの光のうたげ
亡き夫が夢のみならずうつつにも訪るるといふ部屋の入口に
通り雨かがやきすぐるひとときを惜しみ立ちをり赤子抱(だ)く母と
鯔一つ飛んで続かぬ川の面を老人と二人ながめてゐたり
滲(し)み具合まことよろしき鰤大根 隣の人も注文したり
花びらも春風も子に摑まるるなきよわざわざ近づき来(き)たるに
2首目、上句が面白い。手の皺に自らの人生を見ているのだろう。
5首目、下句のリズムが軽快で楽しい歌。
7首目、雨宿りをしている場面。知らない人と一緒に過ごす短い時間である。
9首目、作者の食べている皿を見て隣の人も注文したのかもしれない。
10首目、風に舞う花びらを摑もうとしている小さな子の姿が見える。
2017年12月15日、現代短歌社、2700円。