副題は「日本統治下の南洋を生きた人々」。
1922年から1945年の敗戦まで大日本帝国の委任統治下にあったパラオを訪ね、当時を知る人々に話を聞いたルポルタージュ。数々の証言を通じて南洋群島の歴史や戦前の暮らしが浮かび上がってくる。
パラオにあった熱帯生物研究所やパラオ放送局、あるいは日本語が交じったパラオの歌謡「デレベシエール」のことなど、知らない話がたくさんあって興味を惹かれる。
委任統治と言っても実質的には植民地である。南洋庁の役人や文化人をはじめ、日本からの開拓移民、沖縄や朝鮮から来た人々、現地のカロリニアンなど、パラオには様々な人が住み、そこには差別や格差もあった。
統治する側とされる側、上位に立つ者と下位に立つ者との間では上位の人間の価値観を下位の人間が内面化することが起こりやすい。
貧しい日本の暮らしを抜け出し、永住覚悟で入植した人々にとって、植民地はかけがえのない場所であった。だからこそ、植民の是非を判断することは難しい。ただ、それらの「生」がそこにあった。
著者は植民地の是非について性急に結論を出そうとはしない。一人一人の話を丁寧に聞くことを大事にしている。パラオに住む人だけでなく、戦後パラオから日本に引き揚げた人にも話を聞きに行く。
インターネトで全てがわかったような気分になってしまう時代にあっても、世の中には、(・・・)ネットには載っていないひそやかな物語がいくつも、過去の時間や今現在の中に埋もれているんだと、改めて肝に銘じることになった。
ネット全盛の世の中にあって、こうしたルポルタージュの価値はますます高くなっているのではないだろうか。パラオにもぜひ一度行ってみたい。
2017年8月10日、集英社、1700円。
日本からパラオへの直行便(デルタ航空)は今年の5月6日で運休になってしまうようです。利用客が少ないのかな。