294首を収める第1歌集。
とある朝クリーム色の電話機に変化(へんげ)なしたり受付嬢は
ともだちのこどもがそこにゐるときはさはつてもいいともだちのおなか
白菜を白菜がもつ水で煮るいささかむごいレシピを習ふ
火のやうにさびしいひとにさはれずにただそばにゐてあたためられる
待つことも待たるることもなき春は水族館にみづを見にゆく
樹のそばに木でつくられたベンチあり命あるとはいつまでのこと
あたらしいメールがきみに届くたび目のまへにゐるぼくはうすれる
鬼百合の鬼のあたりを撫でたあとわたしを揺らす白い指先
左から右へ流れてゆく時間 再生ボタンはみな右を向く
もう一度触れてください 改札で声の女に呼びとめられる
1首目、会社の受付の風景。経費削減のため人がいなくなったのだ。
2首目、普段は触ることのない腹部だが、妊娠中は触ることができる。
3首目、考えてみれば自らの水分で煮られるというのは残酷かもしれない。
4首目、火というのは孤独な存在なのだろう。
5首目、「みづを見にゆく」がいい。現代的な水族館の魅力。
6首目、材木として使われていても「木は生きている」と言ったりする。
7首目、目の前の相手がスマホに目をやっている寂しさ。
8首目、「鬼百合の鬼」が面白い。性的なイメージのある歌だ。
9首目、確かに、なぜ右向きが「進む」で左向きが「戻る」なのだろう。
10首目、語順の妙で最初は男女の歌かと思ってしまう。「声の女」もいい。
2017年12月14日、六花書林、2000円。