ところどころ、河野裕子さんかと思うような歌がある。
半ズボン穿いて小学四年生くぬぎどんぐり空き缶のなか
永田和宏『午後の庭』
豆ごはんの中の豆たち三年生、こつちこつちと言ひて隠れる
河野裕子『季の栞』
可愛らしいものを小学生の学年で喩えた表現。
さびしいよ どんなに待つてももう二度と会へないところがこの世だ
なんて 永田和宏『午後の庭』
さびしさよこの世のほかの世を知らず夜の駅舎に雪を見てをり
河野裕子『歩く』
さびしさと「この世」。
内容的にも河野さんのことを詠んだ歌なので、本歌取りなのかもしれない。
さびしいんだろ、だろ、だろ、だろつと雪虫が竹の箒につかまりて言ふ
永田和宏『午後の庭』
人間でないものが話し掛けてくる歌も、後期の河野さんが得意としたもの。
雨に濡れゆさりゆさりと揺れながらいやな雨やなあと竹たちが言ふ
河野裕子『母系』
ゆめやなぎの絮(わた)がほよほよ飛んできてここだつたんだと肩の
上(へ)で言ふ 河野裕子『母系』
縁先(えんさき)にきーんと光れるメヒシバがそれでいいんだよよくや
つたと言ふ 河野裕子『蟬声』
永田さんの歌を読んで河野さんの歌を思い出し、懐かしい気分になった。