2018年01月29日

「塔」2018年1月号(その2)


 かぼちゃ積み軽トラックは止まりたり丘のなだりに傾きながら
                      水越和恵

農作業には欠かせない軽トラ。「かぼちゃ」「丘のなだり」に、作者の住む北海道の風景が彷彿とする。「傾きながら」は、かぼちゃの重さのためと読んだ。

 さきいかの裂かれるときのさみしさをあなたは語る さきいかを振って
                      長月 優

「さきいか」「裂かれる」「さみしさ」の「さ」音の頭韻がよく効いている。結句は冗談めかしたような動作だが、それがかえって本当の寂しさを感じさせる。

 十字路を曲がれるバスの内輪差まざまざとみづは地に残したり
                      永山凌平

水たまりを通ったタイヤが乾いたアスファルトに痕を付けたのだろう。前輪と後輪の付けた曲線が二重になっている様子。まるで交通安全の図解みたいに。

 「評判のパン屋が近くにあったから」二時間かけてお見舞に来る
                      三谷弘子

きっと本当は見舞いが主目的でパン屋の方がついでなのだ。それをパン屋が主目的であるように言ったのは、負担をかけまいとする相手の優しさである。

 この町が私の体になじむまで見知らぬ道を歩き続ける
                      加茂直樹

普通ならば「私がこの町になじむまで」とでも言うところを反対にしたのが効いている。初めて通る道をぐるぐると歩き回って、徐々に身体になじませていく。

 やうやくに寝かしつけたるその後を妻は画像の子を見て過ごす
                      益田克行

やっと眠りについたのだからしばらくは忘れていてもいいのに、今度は画像を見て楽しんでいる。半ば呆れつつも妻の愛情の強さを感じているのだろう。

 筆跡のやうに確かな月光を額に受けて眠るをとめご
                      森尾みづな

何かの隙間から筋状になった月の光がくっきりと額に射している。「筆跡のやうな」という比喩が面白い。別の世界と通じ合っているような雰囲気がある。

posted by 松村正直 at 18:56| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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