2017年12月11日

鶴田伊津歌集 『夜のボート』



2007年から2017年までの作品366首を収めた第2歌集。
2歳から12歳へと成長していく子を詠んだ歌が多い。

渡されし安全ピンの安全をはかりつつ子の胸にとめたり
一通り叱りし後も止められず怒りは昨日の子にまで及ぶ
子のなかにちいさな鈴が鳴りているわたしが叱るたびに鳴りたり
子を叱りきみに怒りてまだ足りず鰯の頭とん、と落とせり
七年を過ごしし部屋を去らんとす床の二箇所の傷を埋めて
些細なる嘘ほど人を苛立たすこと知らぬがに重ぬるひとは
福砂屋のカステラ届くしっとりと刃を受け止めるカステラ届く
旅人算ノートに途中まで解かれ地球のどこかが凍えておりぬ
思いやりその「やり」にある鈍感をくだいてくだいてトイレに流す
ゆびさきのよろこびゆびはくりかえし味わうポン・デ・リングちぎりて

1首目、子の胸に名札を付けているのだろう。服に刺す時はけっこう気を遣う。
2首目、前日の出来事にも怒りの矛先が向かう。「昨日の子にまで」がいい。
3首目、子を叱る時の親の痛み。叱りつけた後にはいつも後悔するのだろう。
4首目、下句に怒りの余韻が漂っていて、何とも怖い。
5首目、「七年」「二箇所」という具体の良さ。荷物を運び出した部屋から、生活の痕跡が消えていく。
6首目、些細な嘘は罪がないと思うのは嘘をつく方の理屈であって、聞く方はそうではないのだ。
7首目、カステラの名店「福砂屋」。「カステラ届く」の繰り返しに高級感がある。
8首目、問題の中の旅人は、きっとどこかに行方不明になっているのだろう。
9首目、「思いやり」という言葉に、他人事のような感じや上から目線な態度を感じ取ったのだと思う。
10首目、8つの玉がつながったような形状をしているドーナツ。それをちぎりながら食べる楽しさ。

2017年12月15日、六花書林、2400円。

posted by 松村正直 at 19:24| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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