2007年から2017年までの作品366首を収めた第2歌集。
2歳から12歳へと成長していく子を詠んだ歌が多い。
渡されし安全ピンの安全をはかりつつ子の胸にとめたり
一通り叱りし後も止められず怒りは昨日の子にまで及ぶ
子のなかにちいさな鈴が鳴りているわたしが叱るたびに鳴りたり
子を叱りきみに怒りてまだ足りず鰯の頭とん、と落とせり
七年を過ごしし部屋を去らんとす床の二箇所の傷を埋めて
些細なる嘘ほど人を苛立たすこと知らぬがに重ぬるひとは
福砂屋のカステラ届くしっとりと刃を受け止めるカステラ届く
旅人算ノートに途中まで解かれ地球のどこかが凍えておりぬ
思いやりその「やり」にある鈍感をくだいてくだいてトイレに流す
ゆびさきのよろこびゆびはくりかえし味わうポン・デ・リングちぎりて
1首目、子の胸に名札を付けているのだろう。服に刺す時はけっこう気を遣う。
2首目、前日の出来事にも怒りの矛先が向かう。「昨日の子にまで」がいい。
3首目、子を叱る時の親の痛み。叱りつけた後にはいつも後悔するのだろう。
4首目、下句に怒りの余韻が漂っていて、何とも怖い。
5首目、「七年」「二箇所」という具体の良さ。荷物を運び出した部屋から、生活の痕跡が消えていく。
6首目、些細な嘘は罪がないと思うのは嘘をつく方の理屈であって、聞く方はそうではないのだ。
7首目、カステラの名店「福砂屋」。「カステラ届く」の繰り返しに高級感がある。
8首目、問題の中の旅人は、きっとどこかに行方不明になっているのだろう。
9首目、「思いやり」という言葉に、他人事のような感じや上から目線な態度を感じ取ったのだと思う。
10首目、8つの玉がつながったような形状をしているドーナツ。それをちぎりながら食べる楽しさ。
2017年12月15日、六花書林、2400円。