高島裕さんの個人誌。
特集は「父」、ゲストは岡井隆。
毎回テーマとゲストの選びがいい。
小さきひとの足持ち上げて尻を拭く。この喜びはいづくより湧く
哺乳瓶の剛(つよ)さを深く信じつつ熱湯注ぎ氷に浸ける
高島裕「百日の空」
「この春に長女が生まれた」という作者の子育ての歌。第1歌集『旧制度(アンシャン・レジーム』(1999年)から読み続けているので、読者としても感慨深いものがある。1首目はおむつを替えているところ。「小さきひと」がいい。2首目は粉ミルクを作りながら哺乳瓶の耐久性に注目しているのが面白い。
茂吉歌集に父が書き入れし言(こと)の葉(は)をさむき雨降る夕ぐれに
読む
傷がないのに痛いつてことがある。父は居ないのに日向(ひなた)だけ
ある 岡井隆「父、三十首」
1首目、岡井の父は斎藤茂吉門下の歌人であった。その父の書いた文字を読みながらもの思いに耽っている。2首目、亡くなった後も父の存在感がどこかに残り続けているのだ。
昭和六十二年製造の天ぷら粉、母の冷蔵庫の隅にひそみゐき
川のやうになりて危険さへ覚ゆるに古書研究会のアナウンス長閑
(のどか) 高島裕「甲午拾遺」
1首目、施設に入った母の家で見つけた天ぷら粉。「昭和六十二年」と言えば今から30年も前だ。2首目は大雨となった京都の古本まつりの光景。何となく古書店ならではという感じがする。
2017年11月30日、TOY、600円。