物語論(ナラトロジー)とは、「物語とは何なのか」「物語とはどのように出来上がっているのか」を論じるもの。本書は第一部が理論編、第二部が分析編となっている。
理論編ではプロップ、ブレモン、バルトらこれまでの物語論の歴史や、物語の中の「時間」、視点と語り手、日本語の特徴といった問題が取り上げられている。
一方の分析編では、『シン・ゴジラ』『エヴァンゲリオン』『百年の孤独』『悪童日記』『この世界の片隅に』など実際の映画や小説などを例に、どのように物語が描かれているかが分析されている。
印象に残った部分をいくつか引こう。
日本語では物語現在を現在として語るが、その際に「た」を使用する。「た」は通常は過去形と考えられるが、物語現在的語りの場合、過去の意味はない。
語り手が自分の言葉でまとめてしまうのがtelling、できるだけその場面を映すように描こうとするのがshowingである。
電話等で「(私は)今からそこに行くね」という時、日本語では一人称主語を基本的に言わない。これは単に、わかりきったことだから省略しているというわけではない。「私」からみて「私」は見えないので、言語化されないのである。
短歌の「私性」や時制の問題なども、短歌の枠組みの中だけで考えるのではなく、こうした物語論を踏まえて考えると随分論点がわかりやすくなる。
もちろん、物語論をそのまま当て嵌めれば事足れりということではない。物語論を踏まえることで、小説とは違う短歌表現の特徴や特質も自ずと浮かび上がってくると思うのだ。
全体にとても面白い本なのだが、分析編はやや駆け足な印象がある。一つ一つの作品についてもう少し詳しく書いて欲しかった。
2017年4月10日、講談社選書メチエ、1700円。
時制について言えば、日常会話の「〜ありき」「〜によりけり」っていう言葉づかいに、度々イライラしてます。
本人たちは、時制とかそういう感覚はなく、なにげなく使ってるんでしょうが、「そんな風に安易に文語を使ってくれるな」、と言いたくなります。
これはある種の職業病みたいなものでしょうかね。
読みやすい本ですので、お時間のある時にぜひどうぞ。